大雨の中、いきなり道を間違え国境を越える。
一昨年60才で会社をリタイヤして、好きな一人旅に行こうと思った。昨年四国八十八か所霊場を廻った後、次はスペインのサンチャゴ巡礼に行こうと思ったが、サンチャゴ巡礼には多くのルートがある。以前、2週間ほどサンチャゴ巡礼で最もポピュラーなフランス人の道を全体の半分弱歩いたことがあり、当初はフランス人の道の800キロ全部を歩こうと思っていたが、いろいろ考えた末に同様の距離である北の道を歩くことにした。きっかけは四国のお遍路中に会ったスペイン人の女性が北の道のアルベルゲを営んでいるそうで、北の道の良さを聞かされたことである。調べてみるとフランス人の道は近年非常に混んでおり、一方で北の道は海沿いを歩く巡礼路が風光明媚で美食の都もあること、全部ではないにしろフランス人の道は一度歩いたことがあることから、北の道を歩くことにした。
時期的にはスペインの夏季休暇中で避暑客で混雑する7、8月を避けた5月中旬から歩くことにした。
北の道TIPS)北の道の良さ
サンチャゴ巡礼路には、フランス人の道、北の道以外にも、北の道と並んで2番人気のポルトガル人の道やアンダルシア地方から北上する銀の道などがある。ここでは北の道の特長を、経験したことのあるフランス人の道と比較してみたい。
<北の道の良い点>
1. 4つの州をほぼ同じくらいの日数をかけて歩くが、初めの3つの州は海沿いのルートであり、特に晴れた日は海が美しい。緑の多い牧草地を歩くことが多く、景色は素晴らしい。
2. ビルバオ、サンセバスチャンといった美食の街ではバル巡りでピンチョスを満喫できる。
3. フランス人の道ほど混んでいないので、のんびり歩ける。巡礼者(カミーノ)の数がフランス人の道ほど多くないので、宿などで知り合いのカミーノに再会する確率も高いのでは?実際、北の道の前半では、フランス人の道の人の多さが嫌で、歩き始めて数日で北の道に進路変更した人にも何人か会った。
4. (これは人によっては悪い点だが)特にビルバオまでの最初の1週間はアップダウンの激しい山道が多く。山道でのトレッキングの楽しさを味わえる。アップダウンは多いが四国遍路の一部の道ほどの急坂は少ない。平らな道を歩くのは楽だが、その分退屈でもある。
<北の道の悪い点>
1. 日本人を含めた東洋人は非常に少ない。欧米人に溶け込める人でないと割と孤独な旅になる。
2. 進むにつれて大きな町は少なくなり、10キロ以上の間、飲食店やスーパーも無い区間がある。特にフランス人の道と合流する前のガリシア州は田舎。(とはいえ、最低でも10キロの間にアルベルゲは存在するので、よほどのことがない限り、どこかには泊まれる)
2025年6月16日朝、成田を発ってホーチミンに入り2泊する。北の道の出発点のイルン(スペイン北部海岸のフランス国境に面した町)へ行くにはいくつかの方法があるが、今回はパリからTGV(フランスの高速鉄道)で移動することにした。パリには成田からJALやAir Franceの直行便もあるが高い。乗り継ぎで移動する場合に一番安いのは中国の航空会社であり、中国の航空会社はロシアの上空も通れるので飛行時間も少し短いが、一度ベトナムに行ってみたかったのでベトナム航空でホーチミン経由で移動することにした。とはいえ成田ーホーチミンの6時間、ホーチミンーパリの13時間を続けて乗るのはしんどいし、ベトナムに行くのは初めてなので、ホーチミンで2日間ストップオーバーで滞在した上で6月18日にパリに移動した。
パリは物価が高くホテルも高いが、幸いシャルル・ド・ゴール空港からメトロで直通でかつモンパルナス駅まで歩いていけるところにあるリーゾナブルな宿をAirbnbを見つけることができた。当日朝、駅やホームがすぐ見つからなかいこともあると思い早めに宿を出たが、駅には高層で目立つモンパルナスタワーもあり、すんなり10分ほどで到着。7:58分のTGV発車までまだ1時間20分ほどある。外に出てタバコを吸いながらパリジャンの出勤風景を眺め、駅構内の売店を覗いたり、ベンチのあるコーナー(結構ゆったり空いている)でスマホを覗いたりして時間を潰す。パリは物価が高く、ラーメン3,000円、おにぎり700円すると聞いていたが、実際に売店のおにぎりは700円(4.5€)だった!どのプラットフォームから電車が出るかは割と直前にならないとわからないので時々電光掲示板を見に行くが、15分前になってやっと確定したので、急いで移動する。



フランス(スペインも)の鉄道TGVは料金変動制で間近になると高いし満席になるので、あらかじめOUIGOというアプリで予約した。スペインとの国境にあるアンダイエまで直行便もあるが、なぜか途中のボルドーでいったん降りて乗り換えた方が安いしボルドーの町も眺めたかったので3時間先のボルドーで降りて1時間ほど時間を潰す。観光地だけあって駅前はカフェも多く、小雨模様だが観光客で賑やか。せっかくなのでボルドーワインを飲もうかと思ったが、ワインを軽く出してくれるような売店は無く、昨晩宿の近くのコンビニで買ったパンを食べる。

ボルドーから2時間半でアンダイエに到着。カミーノ(巡礼者)らしき人もちらほらいる。到着までは小雨模様だったが駅に着いた途端に大雨に。最初からこの天気では先が思いやられると思ったが、巡礼中は雨はほとんど降らず、結果的にこの日が滞在中で一番の大雨だった。

雨はすぐ止みそうもないので雨具を着て出発。アンダイエからは国境の橋を渡り1時間ほどでイルンに着くはずだがいきなり道を間違えて2時間近くかけてイルンの公営アルベルゲに到着。思ったより新しいアルベルゲで、予約不可の宿であり16時の受付開始から間もない時間のため10人弱が受付に並んでいる。アルベルゲの手前で寄った観光案内所で会った愛想の良いベルギー人女性も後から到着。アルベルゲは3つの部屋に分かれており、それぞれの部屋に20人分の二段ベッドが並んでいる。


6時過ぎに夕食に出かけると宿のそばにMenu del peregrinoというカミーノ向け定食を出す店があり、外のメニューを眺めていると店の人に呼び込まれる。2品そのぞれ3-5種類のメニューからスペインでお馴染みの豆のスープ、鳥のソテーを頼む。ワインもデカンタで提供される。ちなみに以前歩いたフランス人の道では毎日のようにMenu del peregrinoを食べていたが、北の道はカミーノが少ないせいかMenu del peregrinoを出しているレストランはほとんど無かった。大抵のレストランは同様のメニューであるMenu del dir(誰でも利用できる日替わりメニュー)を出しているので、それを利用したが、Menu del peregrinoに比べると2割ほど高い。

グラス1杯の場合あり、ここはデカンタで提供

Irunの宿(2025年5月19日泊)
Albergue de peregrinos Jakobi ☆☆☆☆(個人的評価)
– 公営アルベルゲ、料金は寄付制(朝食付)
– 予約不可(16時から受付)
– ドミトリー60床、2段ベッド(20名同室)、洗濯物は外干しOK
Irunから歩き始めるほとんどの人が泊まると思われる。主要なスタート地点なので、ここでクレデンシャルを購入できる(私は熊野古道発行の無料のクレデンシャルを持参したので購入せず)。標準的なアルベルゲ。オスタビレロは親切。
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