タラント(角田光代)<文庫新作>

東京と高松、過去と現在を行き来する再生の物語

角田光代さんは素晴らしい小説家だが、私にとってはよく訪問する西荻窪周辺のグルメに関しての良い案内役でもあり、その食に関するエッセイも多く参考にしている。

今年も「方舟を燃やす」を発表するほか、「ツリーハウス」など長編の年代記ものが多い作者。また、方舟を燃やすでもそうだったように一見無関係の他者が最後に繋がる、もしくは繋がりがわかるという展開も多い(本作の場合は走り高跳びの選手)。

タラントとはギリシャ語で才能や使命を意味するらしい。英語のTalentですね。この本の中ではその両方の意味で使われている。物語は主人公の実家のある高松と、主人公が「閉じ込まれている」と思って高校卒業とともに故郷を離れて今も住んでいる東京を行ったり来たりする。また、時系列的にも高校卒業から現在までの色々な時期を行き来し、主人公の思いや家族や友人などとの繋がりの変遷がより効果的に実感できる。
話の中身としては、大学からひょんなきっかけで始めた海外ボランティアへの関わりと、周りに複数現れる片足の登場人物との関わり(およびパラリンピックに関する話)の二つが話の軸として進む。

躓きながらも自分の前に訪れたチャンスを切り開いていく玲や翔太、おっとりしているように見えても実は一番確固とした信念で自分の決めた道を堅実に進んでいくムーミンに比べて、自身のタラントを見出せない主人公は確固たる目標がなくたまたま出会った出来事や人から生き方を決めていく。おそらく大半の人は主人公の生き方に近いのではないか。しかし、主人公はある出来事によってその生き方も見失い、現在は無気力な生き方をしている。それが片足の登場人物二人との関わりにより、自身と甥が再生していく過程は先に述べた見事な構成で話に引き込まれる。作者の長編を全部読んだわけではないが、読んだ中では最も完成度が高いように感じた。

各章の最後に祖父の過去に関するモノローグが書かれているが、語り口が祖父のキャラクターと異なり違和感を感じていたが、最後にその種明かしがあって、なるほどと思った。

コメント

タイトルとURLをコピーしました