友が、消えた(金城一紀) – 13年ぶりの新作はハードボイルド色を増して、フジテレビ問題を予見?

13年ぶりの新作はハードボイルド色を増して、フジテレビ問題を予見?

何と13年ぶりにゾンビーズシリーズが復活。ただし、主人公の南方以外のメンバーは登場しない。冒頭で依頼人が過去のゾンビーズの活躍の内容を誤って伝える場面があり、はてどんな内容だっけかと過去の4作をざっと読み始めたが、再読にもかかわらずあまりの面白さに4冊を一気読みしてしまった。

この新作で主人公の南方は(この作品で南方の次に重要人物と思える)志田の言う’最底辺の高校’からひとり大学に入るが目的を見出せず、大学で友人も作ろうとせず、ともに南方に目をかけてくれている格闘の師匠との鍛錬や有名俳優からのバイトに精を出す。ある日、大学学生食堂で高校時代の南方の活躍を知る結城からある依頼を受ける。一度はすげなく断った南方だが、格闘の師匠になんで自分によくしてくれるのかと聞いたところ、『理由なんかなくて本能だね。助けろという声がするから、それに従うだけ。その声を無視すると自分が自分じゃなくなるからね。』と言われて、結城の依頼を受けることにする。

過去のゾンビーズシリーズに比べるとハードボイルド色が濃くなっており、特にチャンドラーを意識しているように思える。タイトルからして長い別れ(ロング・グッドバイ)を想起させる。

しかし、ハードボイルド小説と考えると以下の点で少し違和感を覚える。
・南方や志田がスーパーマン過ぎる。(主に格闘面よりも知能面)
・いかに本能に従ったとはいえ、直接の友では無いはっきり言ってクズと思える行方不明者を命を賭けて捜索する気になるものなのか。
・映画俳優、女性アナウンサー、ヤクザ、格闘技の師匠たちなどの登場人物がややステレオタイプ。(ラスボス感のある志田は過去作のSPEEDの登場人物の中川を彷彿とさせるステレオタイプの極みかと思ったが、後半は思わぬ立ち位置を見せる。また、りつはやや新鮮なキャラか。)

とは言え一気に読ませる筆力は相変わらずで、映像作品の脚本以外13年も小説を書かなかった作者には今後も描き続けていただきたい。ラストで次の依頼人が現れたり、りつや志田らは今後のレギュラーになりそうな感じがするので続編も書く予定な気がするが。。。
今回はSPEEDに登場した岡本さんの消息は少し触れられるが、舜臣やアギーなどのゾンビーズメンバーは全く出てこない。ぜひ、次回以降は登場場面を作って欲しい。
GO映画篇などゾンビーズシリーズ以外も傑作を書いてきた作者には、シリーズ以外の作品にも期待したい。

ちなみに、本作では大学内の麻薬やレイプ問題、ジャニーズ問題を想起させる少年への性加害問題、そして現在話題になっている放送局内での女性アナウンサーへの性加害問題が扱われている。いずれもその根幹まで切り込むような内容ではないが、あえてストーリーにそれほど関係ない女性アナウンサーを登場させてまで執筆当時はこれほど問題になっていなかったアナウンサーへの性加害問題を描いたのは、ドラマ脚本などでテレビ局とも繋がりの濃い作者の一種の告発なのではと思うのは穿すぎた考え方だろうか。

コメント

タイトルとURLをコピーしました