ゾンビものの元祖?副題と表紙に惑わされないで!
SFを読むのはものすごく久しぶりである。高校時代はハインライン、ブラッドベリ、フレドリック・ブラウンあたりの古典を結構読んだが、特に理由は無いが最近はほとんど読んでいない。それなのになぜこの本を手に取ったかというと、創元SF文庫70周年記念で石黒正数さんが描き下ろしたマンガが目立つカバーの本が平積みされており、そう言えばトリフィド時代って古典SFがあったなあと思ったので。
副題が食人植物の恐怖となっており、なんか60年代あたりのB級のSF映画みたいな題名だが、全く不要な副題である。また、確信犯だろうが、表紙のマンガはこの本の世界観は全く表していない。
ある日、緑色の大流星群(実際には流星群では無い?)を見た人が皆失明し、主人公の様にたまたまその晩に外を見る状態に無かった一部の人類のみが視力を保持できた。並行して植物油採取のために栽培されていたトリフィドという三本足の動く植物が人類を襲い始めた中でどう生き残るか、どうコミュニティを復興させるかという話。
サバイバルものとしてゾンビものの元祖のような位置付けで、実際に’62年に公開された映画版はその6年後のジョージ・A・ロメロの「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」でゾンビが人間を襲うシーンの描写などに多大な影響を与えているようだ。コーマック・マッカーシーの「ザ・ロード」や村上春樹が訳したマーセル・セローの「極北」のような終末の世界を生き延びるロードムービーもののジャンルは面白いが、これらの暗い世界に比べても劣らず厳しい環境だが恋愛ものの要素もあり、筆致は割と明るい。
副題が表す様なトリフィドとの攻防はどちらかというと淡々としている。盲人が圧倒的多数を占める中で人々をどの程度助けるべきかの葛藤があったり、文明再興のために新しい価値観、互助的価値観、宗教的価値観、封建的価値観それぞれのグループが現れ、その中を主人公たちが彷徨うロードムービー的展開は非常に面白く一気に読めた。
最後は、最近の映画だったら、トリフィドの正体が明らかになったり、もう一波乱、二波乱あるんだと思うが、割とあっさり終わってしまった。「サウンド・オブ・ミュージック」のラストを想起されるラストシーンで、これはこれで良い。非常に映画向きなストーリーだと思うのだが、60年以上映画化されていないのは映像だと描写がちょっと見るのにキツいからか。
コメント